遺言・相続の基礎知識

遺言書はなぜ必要か

「財産なんて特にないから」「うちは家族仲がいいからもめることはない」といったような理由で、遺言は自分には関係ない思っている方は多いと思います。しかし、人が亡くなれば相続手続きは必ず必要です。相続人の調査、財産の調査も必要ですし、その間銀行口座は凍結され当座のお金に困ることもありえます。遺言書で明確に相続財産の行先が明示されていれば、速やかにお金を引き出すことができます。

これはメリットの一例です。まずは遺言書の必要性をぜひご理解ください。

遺言書の種類

民法では遺言書の作り方が定められており、特殊な状況下を除けば、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の三種類あります。

このうち、一般的に使われているのは自筆証書遺言と公正証書遺言の二種類です。

自筆証書遺言のメリット・デメリット

自筆証書遺言は周りに内緒で作れて費用もかからないですが、自分で保管していると紛失したり亡くなっても見つけてもらえなかったりというリスクもあり、また必要な様式を満たしていないと無効になる可能性もあります。

基本的なルールは、全文を自筆で書く(パソコンはNG)、日付を書く、最後に署名・押印する、という三つですが、これ以外にも気をつけなくてはいけないポイントがあり、書き慣れていないと(普通は慣れてないですよね)意外と難しいものです。

もちろん手軽に書けるというメリットはあるので、自信があれば自筆証書遺言でも構わないと思いますが、不安であれば専門家にアドバイスを受けるか、より確実な公正証書遺言をおすすめします。

公正証書遺言のメリット・デメリット

公正証書遺言は、証人2名の立会いの上で、公証人役場において作成します。

自分で遺言を書くのではなく、遺言書に盛り込みたい内容を話して公証人が文案をまとめてくれるので、必要な内容が落ちることはなく、遺言書は公証役場に保管されるので、無効になったり見つからなかったりという自筆証書遺言の心配は、ほぼ解消されます。

生前三点契約書とは

公正証書遺言に加えて、財産管理等の委任契約書、任意後見契約書、尊厳死の宣言書の生前三点契約書を、できれば公正証書で作成し、親御さんの老後の安心を確保しようという動きが、少しずつ広がっています。

ご自分の判断能力が衰える前に、遺言書による死後の安心に加えて、老後の安心も確保しておいて、無用なトラブルにご自分や家族が巻き込まれないように準備しておくことができます。

財産管理等の委任契約書

判断能力はしっかりあるけれども、身体がきつくなってきて銀行に行ったり医療や介護サービスの手続きをするのがおっくうになってきた。こういった場合、ちょっとした支払などは家族などに頼んでも問題ないでしょうが、多額の金額の移動は気軽に頼めるものではありませんし、金融機関の手続きなどは、本人でなければできません。本人同意による委任状があればできますが、いちいち書くのは意外と大変ですし、問題も起きやすいものです。

こんなときに「財産管理等の委任契約書」を作成して、包括的な委任をすることができます。

さらに成年後見制度のところで紹介した任意後見契約書を結ぶことにより、判断能力のあるうちは委任契約で、衰えてきたら任意後見で対応し、大切な財産を守ることができるのです。

尊厳死宣言書

病気や事故で回復の見込みがない脳死状態になったとき、あなたならどうしてほしいですか? 少しでも長く生かしてほしい、自然な死を迎えたい、人それぞれの考え方があると思います。

でもその選択は、元気なうちに意思表示をしておかなければ家族や医師には伝わりません。そこで、過剰な延命措置をしてほしくない、といった希望を伝えるためのものが、この尊厳死宣言書です。

命に関わる大変デリケートな事柄ですので、公正証書で作成して、トラブルを避けることが望ましいと思います。